「今森光彦の水が育む風景」深い森におおわれた森と大きな水音をたてる渓谷。ここは、巨大スギで名高い屋久島です。現在は、島の中央部が世界自然遺産に登録されています。今まで何度も撮影に訪れていますが、いつも雨。でも、体にまとわりついてくるこの湿度感がたまらない魅力なのです。大気の水分が、地面に降りて、木々の根っこに吸い込まれ、やがて沢にはき出されます。屋久島は、大きな水の循環を肌で感じることができる貴重な場所です。

「今森光彦の水が育む風景」雪解け水が音をひびかせる小さな沢をぬけると、カタクリの群落に出会いました。何とも鮮やかなピンク色の絨毯。真っ白な花が彩りをそえていますが、それはイチゲです。あまり気持ちがいいので腰をおろしていると、黒いストライプ模様のギフチョウがやってきました。はねを小刻みにふるわせて、一生懸命に口吻をのばしています。ギフチョウは、"はかない妖精"の名にふさわしい繊細なすがたをしています。水の恵みをうけて、小さな春がはじまります。

「今森光彦の水が育む風景」吐く息は白く、体が凍りついてしまいそうな寒さです。ここは、北海道の東に位置する標津町。あたり一面広大な牧草地がひろがります。原野は、マス目状に区切られ、その端境には林が帯状につらなっています。これらの林は、牧草地の仕切りを兼ねて防風林としてつくられたものです。樹種は、シラカバ、ミズナラ、カラマツなどの落葉樹が主体で、まるで雑木林。薪を採るために定期的に伐採されることもあります。そんな林のベルトは、数多くの生きものたちが集まってくる貴重な環境となっています。

「今森光彦の水が育む風景」涼風をうけながら、目をいるような鮮やかな紅葉につつまれています。クマザサとのコントラストがとても艶やかです。ここは、丹後半島の山塊の尾根路、遠くには、若狭湾が青い水面を光らせています。水を育むブナの森は、沢の下に点在する集落の人々の暮らしをささえてきました。村では、まだ、ヤマフジの繊維から織物をつくる技術などが残っていて、その伝統が受けつがれようとしています。ここのブナの森も、一昔前は、炭をとるために時々伐採されてきたので、りっぱな里山です。奥深い自然の中で、人々が自然と調和した生活をしていたことに驚かされます。

「今森光彦の水が育む風景」春になると、桜をもとめて出かけたくなるのは、日本人だからだろうか。特に残雪を背後にひかえた桜は、どれも心をなごませてくれ、見ごたえがある。富山県もそんな風景がみられる場所のひとつ。ここは、雄大な立山連峰が立ちはだかっているのですばらしい。富山湾の方に回りこんだ午後の太陽が、残雪の山を順光に照らし出す。時間とともに。桜が、鮮やかに耀きはじめる。気がつくと、まわりにいっぱい人が集まって、みんな同じ風景を見つめてため息をついている。やっぱり日本人は、春と言えば桜であるらしい。

写真家 今森光彦

1954年滋賀県生まれ。
大学卒業後独学で写真技術を学び1980年よりフリーランス。以後、大津市郊外の棚田や自然が残る仰木地区を活動の拠点に、琵琶湖をとりまくすべての自然と人との関わりをテーマに撮影する。2007年第56回小学館児童出版文化賞、2009年第28回土門拳賞を受賞するなど、今日本で最も注目されている写真家のひとり。代表作に『今森光彦 昆虫記』『里山』など多数。